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小鳥遊柚子葉の日常II。

雑記日和。様にも公開依頼していますが、こちらでも公開します。

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リリック/レリック外伝

小鳥遊柚子葉の日常II




1. けっかをだせって -これ以上どーしろと-   

 ──Conversation
 手狭な部屋の中、一組の男女が向かい合う。
 そこは親子が団らんするには温かみのない空間であったし、二人の間に漂う空気も親子を思わすものではない。
「結局、今回もあたし一人なんだろ?」
 しかし、この二人が、この部屋で顔を合わせた以上、毎度のやり取りが繰り返されるのは必定だった。
「ああ、申し訳ないがそうなるな。
 それで、これも毎度のことで聞き飽きているだろうが、休暇が欲しい、待遇について相談があるなど、あれば遠慮なく言って欲しい」
「ちげーんだ、別にそんなんじゃねーよ、悠太郎。まあ、金はもらえるならもらっとくけどさー、別に不満があるわけじゃねーよ」
 言外に、もらいすぎなのではないのかという疑問を含ませた少女──柚子葉に対し、悠太郎と呼ばれた男は、ネクタイの結び目を確かめながら応じる。
「そうか、では特別奨学金が追加で出るよう進言しておこう。
 貴女に自覚はないかもしれないが、貴女の働きに対する評価はとても高くてね。このくらいの報酬──いや、奨学金は与えて当然だと言う認識で、お偉い方も一致しているくらいだ」
「そーかいそーかい、そりゃーどーも。
 つーか、見たこともねーおっさんに褒められたところで、別にうれしくもなんともねーけどな」
 本当につまらなさそうな様子で、折りたたみ式の携帯を開いて何やら操作し始める。
「私としても、あのご老人方と顔を合わせるのは、楽しいものではないと断っておこう。
 …さて、これが今回の特別講義(・・・・)の詳細だ。
 繰り返しになるが、貴女が先日アルカナのメンバーを捕まえたことはとても評価されていてね。若干評価のされ方がおかしな方向に向かっている気もするのだが、今回のターゲットもアルカナの構成員のようだ」
 柚子葉は差し出された種類を受け取り、携帯を閉じてスカートのポケットにしまう。そしてざっとそれに目を通すと、まるでチラシか何かのように悠太郎の前に投げた。
「今度は『隠者』(ザ・ハーミット)ね?」
「そうだ。今回報告のあった場所は、本来であれば我々の管轄外なのだがね。向こうの担当が相性が悪いからと手を引いたことで、当然のように貴女の名声に白羽の矢が立ったというわけだ」
「あー? 『隠者』と相性が悪いってゆー意味が、あたしにはわかんねーんだけど?」
 面倒くさそうに髪を掻き上げた柚子葉が、机の上に足を放り出す。
「それとも、光栄だとか言っとけば、てめーは満足だったのか?」
「いや、貴女にそういうおべっかは期待していない」
「そーさ、てめーらのご機嫌取りなんざ知ったことじゃねーよ。だからてめーらも、あたしにはそんなおべんちゃらは求めてねーってわけだ。
 てめーらがあたしに期待するのは、確かな結果だけ──そうゆーことなんだろ?」
 再び携帯を取り出した柚子葉の問いに、机上に広がった資料を集めながら悠太郎が答える。
「否定はしないが、そこまで割り切られるのも、教師としては悲しいな」
「うるせーよ、今さらてめーが教師面したところで何になるってんだ。他にねーなら、あたしは行くぜ?」
 後ろ頭で手を組んだまま大きく背伸びした柚子葉が、面倒くさそうに立ち上がった。
「分かった、気をつけて行くといい。私は、今回も貴女の成功を祈っておくことにするよ」
「ああ、そーしてろ」
 なおざりに答え、柚子葉は宣言通りに退室する。
「そーさ、てめーは黙って待ってりゃいーのさ、いつもどーりな」



2. あたしのりゆう -大したことじゃねーけどな-   

 ──Monologue
 『戦車』(ザ・チャリオット)と戦ってから三日、あたしは悠太郎に校内放送で呼びつけられた。
 てゆーか、メールで呼べってんだ。これじゃマジであたしが不良みてーじゃねーか。って、あたしは不良ってことになってたんだっけか。ったく、面倒くせーな。
 悠太郎の顔なんざ見てーわけじゃねーんだが、とりあえずあたしが錬金術部員である以上、スリーエーである以上、それは仕方ねーことだって諦めてるけどな。

 あたしは、錬金術師としては落ちこぼれだ。それは間違いねー。
 小難しいアトリエ式(アトリエ)とか鋼式(ハガネ)とかしろがね式(しろがね)はよくわかんねーし、悠太郎が持ってたどの核鉄も、あたしには反応しなかった。
 リリックやレリックはそれなりに使えるけど、要するに、それだけだったんだ。そんなの、ここに住んでるなら誰だってできるもんな。
 そんな、いかにも普通だったあたしに、悠太郎が勧めてくれたのが『賢者の知恵』(ウィザーズ・ウィズダム)だった。文句なくあたしに応じてくれた核鉄を前に、あたしがそれを受け入れねー理由はなかったんだ。

 ──だから、あたしはスリーエーになった。
 それが、この核鉄をあたしのものにするための、悠太郎から出された、たった一つの条件だったんだ。スリーエーになったことに対する後悔は、…あんまりしてねーよ。



3. やっぱり -こーなんのかよ?-   

 ──Battles
「見つけたよ、『隠者』」
 華ヶ丘から県境を三つほど越えたところの街の路地裏で、少女は一人の老人に声を掛ける。
「…はて、どちら様かな? こんな可愛らしい孫を持った覚えは、ないのじゃがね?」
「ボケたフリしたとこで、意味なんかねーんだぜ『隠者』。あたしはジジイにも厳しいんだ、わりーけど大人しく捕まってくんねーかな。目の前でぽっくり逝かれんも、きっと気持ちわりーだろーしな」
 的外れに応じる老人をあざ笑い、少女は手近な建物の壁に背を預ける。
「タロットでの『隠者』の意味は、乙女座の象徴にしてカードナンバーは九。意味するところは洞察力、理屈、秘密、そして叡智。
 そこから推測されるてめーの力はアトリエ式(アトリエ)。ろくでもねークスリの精製が得意ってとこか?」
「はて、人違いではないかね? 儂には何を言っているのか、見当もつかないのじゃが」
 それでもまだ態度を変えない老人に対し、柚子葉がとどめの言葉を言い放つ。
「てめーの無駄口は時間稼ぎのつもりなんだろーけどさー、『隠者』の逆位置が意味するのは閉鎖的、否定、一方的、そして孤独──だったか?
 そのカードが示すみてーに、やっぱてめーは孤独なんだぜ。
 何よりあたしがここにきた時点で、助けは絶対にこねー! 行くぜ、武装練金『賢者の知恵』(ウィザーズ・ウィズダム)!」
 問答無用と柚子葉が武装練金を発動させたところで、『隠者』が懐から試験管をいくつか取り出して地面に叩きつけた。もうもうとした煙と刺激臭が辺りに立ちこめる。
「国家の犬風情が、粋がるでないわ!」
 老人が小さなフラスコを少女が先までいた辺りへ向けて放ち、老人とは思えない動きで建物の陰に身を隠せば、直後に大きな音と共に強い爆発が起こる。
「──なんだ、言うほど大したことねーな。さて、…覚悟は、いーかよ?」
 少なからずダメージを与えていることを期待した攻撃だったにもかかわらず、まるで平気そうな柚子葉の様子から、彼女の武装練金を防御系と判断したらしい。老人は相手の堅牢な防御を突き崩そうと、再び懐に手を伸ばす。
「これが効かぬことは、なかなかの防御のようじゃな!」
 しかし柚子葉は、相手の為そうとしたことのすべてを、ただ一言の下に切り捨てた。
「つーか、おせーんだよ!」
 ばさりと黒マントをひるがえす柚子葉の手元は先の爆発の煙で隠れていたが、そこから聞く人が聞けばそれと知れる独特の言葉の連なりが流れたかと思えば、老人の身体が大きく跳ね飛ばされていた。
「ば、ばかな…!? そんなことは、ありえん…っ」
 強く壁に叩きつけられた老人が喘ぐように言い、少女はそれに応えることなく、ただ携帯を閉じる。
「ああ、そーだな。あたしもついこないだまでは、そう思ってたよ」
 そして意識を失った老人に一言吐き捨て、背を向けた。



4. だからあたしに -難しーことゆーなってば-   

 ──Monologue
 『隠者』と戦った後のあたしは、いつもどーり悠太郎が寄こした車に乗って帰ってる。
 県を三つも越えてるのに、なんでわざわざ車かってゆーとだな、あたしが飛行機に乗りたくねーからだ。
 誤解のねーように言っとくが、別に高いところが怖いわけじゃねーんだぜ? ただ、こう、なんかどーにも落ち着かねーんだゆな。だから、乗らなくてもいーなら乗らねーようにしてるってだけで。
 つーか、悠太郎がこのことで「かわいーとこもあって安心した」なんて抜かしやがるのは、すげーむかつくとこなんだけどな。
 それはともかく、タロットの『隠者』のカードってゆーのは、ジジイの絵が描かれてるんだ。
 ただのジジイならどーでもいーんだけど、そのジジイってのは錬金術の開祖だって言われてる奴らしい。詳しいことはググれってことで、…これでも戦う前は、相手が本当にジジイだってこともあって、けっこー警戒してたんだぜ?
 まあ結局、余計に疲れただけだったけどな。
 でもさ、なんかで読んだけど、こうゆーのは準備できるだけしといて、それが無駄になったと笑い話にするのが最善なんだとさ。無駄になるのはヤだがらそのとーりだとは思わねーけど、間違ってるとは思わねー。
 ただ、要するにあたしはあたしらしく、いつもどーりのことをするだけで。
 誰が敵だろーと、何が相手だろーと、あたしはいつもどーりで、何も変わんねーってことで、いーんじゃねーのかなって。


-おわり-






登場人物
・小鳥遊柚子葉(たかなしゆずは)…華ヶ丘高校普通科二年生。女。不良。錬金術部所属。
・高木悠太郎(たかぎゆうたろう)…華ヶ丘高校化学教師。男。錬金術部顧問。
・隠者(ザ・ハーミット)…今回のターゲット。男。アトリエ式。

21:46 | 華が丘 | comments(0) | trackbacks(0)
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