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小鳥遊柚子葉の日常検


リリック/レリック外伝

小鳥遊柚子葉の日常IV




1. やっぱあたしは -黙ってた方がいーのかもな-   

 ──Conversation
「ったく、ずいぶん面倒くせーことになってんな?」
 半ばあきれた口調の柚子葉(ゆずは)が机の上に足を投げ出すと、向かいに座る悠太郎(ゆうたろう)がため息をついた。
「他ならぬ貴女の意見だからとずいぶん珍重してくれてね。何でも、外国の要人が集まる会議と同じレベルの警戒だそうだよ」
「そうゆーの以上だろ、ほとんどの奴が気づいてねーしさ。さっきてめーに呼ばれて職員室に行ったけど、そこにいた奴で気づいてたのはトガと雀原とロリ近(ろりちか)くらいだったぜ?」
 その呼び名はぜひ本人に対しては言わないで欲しいと釘を刺してから、悠太郎が応じる。
「それを聞いて安心したよ、そうであれば、生徒で気づいているのは魔法感知に秀でている子だけだろう。彼女たちは揃って口が堅いし、こういうときの相談相手には雀原先生を選ぶはずだ。
 雀原先生ならきっと上手くしてくれるだろうから、何の心配もいらないだろう」
「…てめーが言うなら、きっとそーなんだろーさ」
 制服のスカートが大きくめくれ上がることにも構わず、柚子葉が足を組み替える。
「それより、貴女には大きな発言権があるということが、これで少しは実感できましたか?」
 しかしそんな柚子葉の様子には目もくれず、傍らに置いていた書類に目を移す。。
「あのな、こんな大げさになるなんざ思うワケがねーだろ。つーか、そんなこたどーでもいーが、これじゃあここに何かあるってわざわざ言ってるよーなもんじゃねーのか?」
「確かに大部分が気づかないとは言え、逆に言えば気づく人間もいるということだが、…残念ながらまだもうろくしているわけではないらしく、あの老人方も理解しているようだ」
「…まさかこの街全部をエサにするつもりかよ。だったら、マジで正気の沙汰じゃねーぜ?」
 首から提げた携帯をいじりながら柚子葉が言えば、対する悠太郎がたしなめる。
「貴女の言うことももっともだが、…これがまた一体どうしたことか、まるで誰かの思惑通りのようにことが進んでいてね。
 先ほど届いた報告によれば、この警備網に掛かったアルカナ構成員と思しき三名を拘束したそうだよ」
「…何が言いてーんだ」
 回りくどい物言いに苛立つ柚子葉に、悠太郎が告げる。
「貴女にとっては大したことではないだろう特別講義の話だ。
 任意の協力で得られた情報によれば、今回の侵入は四名で、まだ捕まっていない残りの一名は『月』(ザ・ムーン)らしい。もちろん、彼についても魔法と目視の両面による探索を実行中だ」
 任意という言葉に顔をしかめる柚子葉を尻目に、悠太郎がさらに言を継ぐ。
「おかげで、幸か不幸か、貴女に対する評価はむしろ高まっていると言っていいのだろう。
 だからこそなのかどうかは貴女の判断に委ねるが、この報告と一緒に、一部では実に名誉だと言われているらしいことがもう一つある。
 何かを勘違いしている老人たちの言葉をそのまま伝えるだけだから、ぜひ怒らないで聞いて欲しいのだが──これまでの貴女の偉大なる功績をたたえ、今後のさらなる活躍を期待して『泡沫の魔女』(うたかたのまじょ)の名を送る、だそうだ」
「…おいおい、あたしが魔女ってのは、ずいぶん笑えねー冗談だな?」
 機嫌を損ねていた柚子葉であったが、魔女の名を送られるという段になると、机上にあった足を下ろして身を乗り出す。
「それだけ貴女を信頼しているということなのだろう。
 貴女を留め置くための方便なのは間違いないが、それでも貴女は魔女になるのだろう? だから、おめでとうと言っておくよ」
「ずいぶん知ったよーなことゆーじゃねーか、悠太郎?」
「それはもう、よく知っているからね。それに、魔女という肩書きがもたらす恩恵の一つ、メガ・ラニカのへの渡航許可が多少出やすくなるということを、まさか貴女が知らないはずがない」
 それを聞いた柚子葉が鼻を鳴らし、後ろ頭に腕を組んだ。
「そこまで知っててやってんなら、あたしは魔女になるしかねーんだろ。つーか覚えとけよ、てめーがそうゆーから仕方なく魔女になるんだってことだけはな」
「胸に刻んでおこう」
 その答えに満足したのか、柚子葉が折りたたみ式の携帯をぱたりと閉じる。



2. あたしの -好きなこと-   

 ──Monologue
 こっちの世界で魔女って肩書きもらっても、実際のところ、せいぜいラガ・ラニカにちょっとばかし行きやすくなるくれーの意味しかねーんだ。
 そんな程度だから、魔女になっても誰もわざわざ自分で魔女だって言わねーし、もちろんあたしも名乗るつもりはねーよ。
 けどさ、あたしにとってはそーじゃねーんだ。あっちに行きやすくなるってだけでも、十分すぎるくらいのご褒美なんだぜ?
 魔法庁のジジイ共はきっと、そのことをよく分かってんだろーな。

 あたしは、メガ・ラニカに行くのが好きだ。メガ・ラニカで過ごせる時間が好きだ。あっちに住めんなら住みてーと思うくらいには、好きだ。
 誰かの手のひらの上だって分かってても、それでもあたしがスリーエーをやってんのは、…きっとそうゆーことなんだろ。



3. こうゆーのは -けっこー困るもんだな?-   

 ──Battles
「別にてめーを探してたわけじゃねーし、だから観念しろってのも芸がねーんだけどさ、…見つけちまった以上逃がす理由もねーよ。
 まー、あたしに見つかるとはてめーも運がねーな、『月』(ザ・ムーン)
 悠太郎と別れてから何となく歩いていた柚子葉が、厳重な警備網から唯一逃れていた男を繁華街の路地裏で見つけたのは、まさに偶然だった。
「…国家錬金術師か。わざわざ出迎えてもらって悪いが、お前に用はない」
「まー、そーだろーけどさ。てめーにゃなくても、あたしにゃあるんでね。──『月』は魚座の象徴にして、カードナンバーは十八。その意味するところは裏切り、幻想、不安定、そして失敗。
 そこから推測されるてめーの力は鋼式(ハガネ)──月の石を使ったある種特別なヤツか」
 柚子葉がひょいと肩をすくめれば、その様子が鼻についたのか『月』が語気を強める。
「お前のような子供に手を上げるのは忍びないが、…降りかかる火の粉は払わせてもらうぞ」
 そして男が指を鳴らすと、錬成陣もなしに、道路に敷かれたアスファルトが柚子葉を貫かんと一斉に突き上げられる。
「ちぃっ!」
 男は先制攻撃を避けられたはしたものの、柚子葉にペースは渡すまいと次々と錬成を繰り返す。
 それはまるでしつように柚子葉を追い回すハリネズミのようで、その軌跡が十字に交差したところで『月』が吠えれば、それまでに創られたアスファルトの牙が噛みついた。がつという鈍い音が何度も響き、砂ぼこりが舞い上がる。
「国家錬金術師と言えどもやはり小娘、この程度か」
 所詮児戯かときびすを返した『月』の背中を、もうもうたる砂ぼこりの中から柚子葉が繰り出した一撃がとらえ、頭から近くのブロック壁に叩きつける。
「──武装練金『賢者の知恵』(ウィザーズ・ウィズダム)!
 あのな、てめーの言うところの小娘程度でも、くると分かってりゃ何とかすんのはそんなに難しくねーんだぜ?」
 男は柚子葉の初撃だけで気を失ったのか、壁にもたれるようにしてずるずると倒れ込んでいく。
「『月』の逆位置が意味するところは静けさ、繰り返し、変化、そして成功への道のり。でも、残念だったな、てめーはそこまで届かなかったみてーだ」
 柚子葉はつまらなさそうに『月』を見下ろし、まとった黒いマントを風にはためかせる。



4. いちいち -言われなくてもさ-   

 ──Conversation
「まったく貴女という人は…、今出て行ったかと思えば、もう戻ってくるとは。そんなにこの部屋が好きなのですか?」
「…うるせーよ、あたしにとっても、てめーの面を一日に二回も見ることになるなんざ不本意なんだぜ」
 柚子葉が悠太郎に背を向ける形で机に手をつくと、そこに飛び乗るようにして腰を下ろす。
「それにしても、さすがは柚子葉くんだ。まさか、こうもあっさりと四人目を捕まえてくるとは思ってもいなかったよ」
 しかし、悠太郎は言葉とは裏腹にため息をつき、柚子葉に座られて破れてしまった書類を諦める。
「今回に関しちゃ、ホントにただのぐーぜんさ。褒められるよーなことは何もしてねーよ」
「偶然を呼び込むのも実力のうちと言うのが、ご老人方の意見だよ。それに、貴女は安楽椅子に揺られているわけではないのだから、何と言われても気にすることはないはずだ」
「…それは、てめーも思ってんのか?」
 柚子葉の問いに、悠太郎がうなずく。
「アルカナが関わる限り、貴女以外に任せる気はないよ。
 たとえ錬金術部を駆り出して共同戦線を張ることになったとしても、貴女を中心にした作戦を立てるだろう」
「止めとけよ、そんなことしチャ閣下が黙っちゃいねーだろ」
 思わず苦笑して、柚子葉が己の髪を掻き上げた。


-おわり-






登場人物
・小鳥遊柚子葉(たかなしゆずは)…華ヶ丘高校普通科二年生。女。不良。錬金術部所属。
・高木悠太郎(たかぎゆうたろう)…華ヶ丘高校化学教師。男。錬金術部顧問。
・兎叶はいり(とがのうはいり)…華ヶ丘高校体育教師。女。トガ。名前だけ登場。
・雀原葵(すずはらあおい)…華ヶ丘高校歴史教師。女。名前だけ登場。
・ローリ近原(ろーりちかはら)…華ヶ丘高校養護教諭。女。ロリ近。名前だけ登場。
・桜小路春香(さくらこうじはるか)…華ヶ丘高校三年生。錬金術部部長。閣下。名前だけ登場。
・月(ザ・ムーン)…今回のターゲット。男。鋼式。

09:01 | 華が丘 | comments(0) | trackbacks(0)
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