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小鳥遊柚子葉の日常V。

リリック/レリック外伝

小鳥遊柚子葉の日常V




1. このくれーで -参ってられっかよ!-   

 ──Conversation
「ロリ近(ろりちか)、わりーけどベッド貸してくんねーか」
 そんなことを言って柚子葉(ゆずは)が保健室を訪れたのは、七月も終わりに近い、生徒たちにとっては夏休み真っ只中なはずの、昼頃のことだった。
「あのね小鳥遊(たかなし)さん、昼寝なら自分のおうちに帰ってからにしてもらえないかしら」
 書類を整理していたローリが声だけでくだんの女生徒と知って嘆息し、顔を上げたところではっと息を飲む。
「…へー、てめーは血を見ても騒がねーんだな?」
「騒げば治せるなら、そうするわよ。でも、実際はそうじゃないもの。
 それで、ずいぶん派手にやんちゃしたようだけれど、止血くらいは済んでいるのね?」
 足元が幾分かおぼつかない柚子葉をベッドの端に座らせると、ローリは血に染まった柚子葉の制服を躊躇なく裁ちバサミで切り裂いていく。
「ああ。けど、あたしにできたのはそれだけさ。毒が着いてるとか、ばい菌がどーのとかはわかんねーな。…ったく、ちくちょーめ、つまんねーことになっちまった!」
「動くと余計なものまで切れるわよ。
 …私は貴女が何をしているか、それは知らないし、聞かない。でもね、こういうときくらい、もっと大人を頼っていいんだわ」
 柚子葉が負っていたのは、鋭利な刃物で斬られたような裂傷だった。かなり深いようだが、それでもローリの感覚で言えば、時間さえ許すならば跡形なく治すことさえ難しいものではない。
「おいおい、そのせりふは、ロリ近がゆっても説得力がねーな」
 そんないつも通りの減らず口に添えられたのは、力のない笑みだった。
「…なあ、こんくらいなら、治せんだろ?」
「もちろん治せるけれど、とりあえず起き上がれなくなる程度には体力を使うことになると思うわ」
 淡々と答えれば、浅い呼吸を繰り返す柚子葉が腕をつかみ、ローリはその力に思わず顔をしかめながら言葉を継ぐ。
「だから一応訊くわ。小鳥遊さんは何時に起こして欲しいのかしら?」
「…その前に訊きてーな。てめーの魔法であたしが治ったとして、フツーに歩けんのはいつになるんだ?」
「そうね、大甘に見積もったとしても、明後日の朝以降かしら」
 ローリが答えに続けて何事か唱えれば、柚子葉の傷口にかざされた手からやわらかな光が放たれる。
「さすがに二日もかかるんじゃ遅すぎて話にならねー。…あたしの言い値は、今日の十六時だ」
 柚子葉が言った時間まで、たったの四時間ほどしかない。どう考えても、まったく無理な注文だった。
「いいわ、その時間に叩き起こしてあげる。けれど、小鳥遊さんが起き上がれるかどうかは別の話だから、恨みっこなしよ?」
「ああ、それでいーさ」
 しかし、それでもうなずいてくれたローリを頼もしく思い、柚子葉が静かに目を閉じる。



2. 小さくて -大きな力-   

 ──Conversation
 柚子葉への施術がひとまず終わると、ローリは悠太郎(ゆうたろう)を呼び出して詰問した。
「これは一体どういうことなのか説明してくれるかしら、高木先生」
「申し訳ありませんが、近原先生のお願いであっても、彼女のしていることについてお答えするわけにはいきません」
 強い調子にも動じず、軽く頭を下げた悠太郎の言葉があまりにも想定通りだったのだろう、ローリがゆるりとかぶりを振る。
「…そう言われると思ったわ。この時世に、高校生の女の子が、斬った張ったの荒事に巻き込まれるなんて言う非日常のただ中にありながら、小鳥遊さんはそのことを疑問に感じていなかったから。
 きっと小鳥遊さん自身も、その非日常の一部なのね」
 何か思うところがあるのか、ローリの目が伏せられる。
「高木先生の口から言えないのであれば、それで構わない。
 小鳥遊さんはこれだけのけがをしてもなお、何かをしようとしている。この子を突き動かしているものは、一体何だと言うの?」
「…さて、何を申し上げればいいのか窮しますが、…彼女は皆に思われているような、いわゆる不良ではない、と言うことです」
 いまいち的を射ていない悠太郎の答えに、ローリが眉根を寄せる。
「彼女はただ、自分の夢を叶えるために一生懸命なだけ──私から言えるのは、それだけです」
「なるほど、小鳥遊さんが魔女になったのも、その一環というわけなのね」
「おやおや、これはこれは。彼女が魔女になったのはつい最近のことなのですが、…ずいぶんと耳が早くていらっしゃる」
 半ば皮肉めいた色をにじませる悠太郎を、風の噂で聞いたのだとローリが受け流す。
「それより、これだけはちゃんと答えて。高木先生は小鳥遊さんを、小鳥遊さんの夢を、応援しているの?」
「ええ、それは間違いなく」
 ベッドの上で時折苦しそうにうめく柚子葉を気に掛けながら、ローリが机上に置いていた自分の携帯を手に取る。
「だったら私も、小鳥遊さんの夢のために、少しだけ力を貸してみたいわ。──でもその前に、小鳥遊さんの私の呼び方を、ぜひ変えてもらいたいのだけれど」
「…それをどうして私に言うのですか、近原先生」
 時計の針は、そろそろ十六時を指そうとしていた。



3. けが人なんだから -優しくしてくれよ-   

 ──Monologue
 時間だって言われて起こされたとき、自分が動けたのは驚いた。いくらあたしだって、まさかロリ近がホントに何とかしてくれるたー思ってなかったからな。ショージキ見くびってたぜ。
 まあ、もちろん万全ってワケじゃねーし、はっきり言っちまえば超だりーって感じだけど、それでもこうやって動けるだけで十分すぎた。
 治癒魔法ってのが便利なのは間違いねーけど、だからって万能じゃねーのも間違いねーんだ。
 難しー理屈はわかんねーが、傷を治せばその分だけ疲れる──そんなことは、ちょっとでも魔法を知ってりゃジョーシキだし、だからあたしがこうやって動けてんのがフツーじゃねーってのが、よく分かるんだ。

 あたしの枕元には新品の制服と、…保健室の備品なのか、百均で売ってる下着が箱のまま置いてあった。
 制服はきっと悠太郎が手配してくれたんだろ。あたしが制服をダメにしちまったのも、これがはじめてじゃねーしな。

 着替え終わって出てこうとしたあたしに、次は気をつけなさいなんて言ってくれたロリ近の頭を、思わずなでちまった。
 …あー、言い訳させてもらえるなら、なんかこう、ちょうどいい高さだったんだよな−。
 なでた途端に足を蹴られて、それがまた予想よりずっと痛くて、マジで泣きそうだったぜ。
 つーか、そんな怒るほどあたしになでられるのがヤなのかよって、ちょっとショックだったかもしれねー…。いや、ほんのちょっとだけ、な。



4. オトシマエは -きっちりつけとくぜ-   

 ──Battles
「よう、また会えたな、『  』(ザ・デス)」
「…また斬られにきたのでなければ、帰って」
 地に伸びる影が長くなってきた華ヶ丘の街外れで、柚子葉が相対するのは修道服に身を包んだ少女だった。
「わざわざやられにきたわけじゃねーが、だからって帰るわけにもいかねーときは、どーすりゃいーんだい?」
「最初から来なければ良かった」
 柚子葉と修道服の少女の間はまだ二十メートルほど空いていたが、柚子葉はすでに己の武装練金である『賢者の知恵』(ウィザーズ・ウィズダム)を発動させている。いわゆる後の先、相手の動きに合わせて動きたがる彼女にしては、非常に珍しいことだった。
「それじゃ話が始まらねーんだけどな?」
「──それでいい。だから私を、戦わせないで」
 肩をふるわせる少女に向けて、柚子葉が叫んだ。
「なあ、てめーは自分で気づいてるか? 言ってることがめちゃくちゃだぜ。
 戦いたくねーなら何でアルカナなんてところにいやがる! てめーがアルカナにいる限り、あたしみてーなヤツが、てめーが捕まるまで、てめーの尻を追っかけ回すに決まってんだろーが!」
 柚子葉が武装練金の黒マントを跳ね上げる。
「『  』は蠍座の象徴にして、カードナンバーは十三。その意味するところは終焉、破滅、引退、そして試練。
 そーいや、まるでカード名をなぞったみてーに、てめーの力は大鎌の武装練金だったな?」
 掛けられた言葉に少なからず動揺を見せる少女に、折りたたみ式の携帯を開いた柚子葉が躍りかかった。
「さあ、選びな! てめーが狩るのは、換えの利く駒の一つでしかねーあたしの首か、それともてめーがやってきた何かか!」
「そんなの、どっちも、選べない…っ!」
 攻撃を受ける少女も武装練金を発現させ、襲いくる魔力のつぶてを身体に近いところで弾き返す。
「ごちゃごちゃ言っても聞こえねーぜ!
 ちなみにさ、あたしは死に損ないだから、てめーがどっちを選ぼーが知ったこっちゃねーんだ。だからゆっくりゆっくり選んでいーんだぜ、…てめーの気が済むまで、檻の中でなあ!」
 軽やかな旋律のような着ボイスと共に発せられた閃光が、少女を貫く。
「──『  』の逆位置が意味するところは回復、克服、リセット、そして心機一転。だから、時間はかかるかもしんねーが、…きっとてめーはやり直せるさ」
 気を失った少女を抱き留めた柚子葉が、その意外なほどの軽さに驚きながら、そっとつぶやいた。


-おわり-






登場人物
・小鳥遊柚子葉(たかなしゆずは)…華ヶ丘高校普通科二年生。女。不良。錬金術部所属。
・ローリ近原(ろーりちかはら)…華ヶ丘高校養護教諭。女。ロリ近。
・高木悠太郎(たかぎゆうたろう)…華ヶ丘高校化学教師。男。錬金術部顧問。
・『  』(ザ・デス)…今回のターゲット。女。武装練金式。

15:15 | 華が丘 | comments(0) | trackbacks(0)
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