blog - mini + cafe

小鳥遊柚子葉の日常VII。

リリック/レリック外伝

小鳥遊柚子葉の日常VII




1. どうして -この街に来やがるんだ?-   

 ──Battle
「見つけたぜ『悪魔』(ザ・デビル)」
 そう言った柚子葉が、華ヶ丘の狭い路地を縫うようにして逃げていた若い男の前に立ち塞がる。
「僕も足の速さには結構自信があったんだけど、どうやら君には敵わないみたいだね」
 足を止められた男は苦笑して、額に浮いた汗をぬぐった。
「ところで、君はどうして僕を追い掛けてくるんだい? 少なくとも、君に迷惑を掛けた覚えはないんだけど」
「おいおい、知らないで逃げてたのかよ。つーか本気でそんなこと言ってんのか?
 言ってやるまでもねーと思ってたが、だったら言っとくぜ、てめーらが華ヶ丘に来るだけですげー迷惑なんだってな。
 それに、こちとら国家権力の犬っころってヤツでね。個人的にどうこーってな、あんましカンケーねーのさ」
 面倒くさそうにかぶりを振る柚子葉が、ここまで走ってきたことで少しめくれていたシャツの裾を押さえる。
「君が追い掛けてくるものだから、ただ何となく逃げていたんだよ。
 でも、なるほど。君が、僕たちを付け狙っているとかねてから噂になっている、魔法庁の魔女なんだね」
 そこまで知ってなお柚子葉を敵と認識していないかのような態度を見せる男に、柚子葉は近くの壁に背を預けて薄く笑んだ。
「ずいぶんよゆーあんだな、てめーは。
 何にしても、さっきのてめーのせりふは聞ーてるこっちが恥ずかしーくれーだったから、次からは止めといた方がいーぜ。…まー、次があんなら、だけど」
「気をつけよう」
 言った本人でさえ安いと思った挑発には乗ってこない相手に、やれやれとお手上げしたいのをぐっとこらえながら、その気持ちを誤魔化すように柚子葉が髪を掻き上げる。
「『悪魔』は山羊座の象徴にして、カードナンバーは十五。その意味するところは執心、堕落、破壊、そして運命の分かれ道。そこから推測されるてめーの力は鋼式(ハガネ)、そしてしろがね式(シロガネ)──まったく、面倒くせー組み合わせだぜ」
「名前だけでそこまで知れるとは、君はなかなか油断ならないね。でも、その頭の良さをこういう方向に発揮することには、感心しないよ」
 軽い調子で応じながらも柚子葉からは逃げられないと察したのか、『悪魔』が足下に錬成陣を描き出せば、篭められた攻撃性を感じた柚子葉が大きく後ろに下がる。
「ただ、こんな狭いところで僕と戦おうというのは、賢い選択じゃなかったね」
 つい先まで彼女が立っていた場所に石矢の雨が降り注いだのが、柚子葉の目に映る。
「ああ、まったくだぜ」
 次々と無機物の刃を錬成して放ってくる相手に、無駄口を叩くのも楽でない程度には、柚子葉は防戦一方の状況に追い込まれていた。
「てめーみてーなハガネの奴を相手にするにゃあ、最悪を通り越して地獄みてーなもんだぜ」
 それは『悪魔』だけでなく、彼がいつの間にか展開していた小人(ホムンクルス)たちまでもが鋼式の錬成をしてきたことに起因していた。
「ちくしょーめが!」
 魔法携帯を握った柚子葉が呪いの言葉を吐き、着ボイスから発動した魔法が小人の一体をまるでハエのように叩きつぶす。
「乱暴だな。けれど、そんな小人の一体や二体、やられたところで痛くもかゆくもないよ」
「うっせーよ、んなこた分かってらー!」
 つぶされた小人がぞもぞと動き出し、再び立ち上がる。その様子はあまりに醜悪で、目の当たりにした柚子葉が嫌悪を示した。
「きたねーな、何かいろいろ垂れてんじゃねーか」
「残念ながら、そこにこだわるような美学は持ち合わせていなくてね」
 道具は動きさえすればいいと考えているのだろう、柚子葉の眉間に刻まれるしわが深さを増した。
「…んなこと言ってると、もてねーぜ」
「そうか、気をつけよう」
 苦し紛れとも取れた柚子葉の軽口さえ聞き流し、男はさらに攻撃の手を強める。
「君がいつまで続けられるのか、見せてもらうよ」
 その言葉に、足元へ転げてきた小人を腹いせに蹴飛ばして、柚子葉が唾棄した。



2. あたしにできることは -そんな多くねーよ-   

 ──Monologue
 ロリ近に言われて隣町まで行ってきたのが半月くれー前だったか、なんつーか、アレはひどかったぜ。
 上等の部屋をあてがってくれたのは向こうの誠意ってヤツなんだろーけど、わざわざあの部屋だった辺りは、きっとロリ近の入れ知恵なんだろ。本人は否定してっけどな。
 錬金術のことも少しは知ってるみてーだし、悠太郎のアホとも仲がいーみてーだし、どーにも調子狂うよなー…って、それはあたしだけか。
 ま、メガ・ラニカの大魔女に対して貸しは作れたけど、それだけじゃぜってー割に合わねーし。

 ──あたしは、魔法庁の魔女だ。
 その魔法庁からもらった、魔女としての名前は、泡沫(うたかた)。
 炎の魔女とか、象牙の塔の魔女とかじゃなく、あたしは「泡沫の魔女」なんて名前をもらっちまった。半分はきっと成り上がり者に対する悪口で、半分はきっとあたしを認めてくれてるからで。

 面倒くせーのも間違いねーが、あたしを完全にナメてるこいつには、魔女が伊達じゃねーってことを思い知らせてやらねーとなあ?



3. 決着はいつだって -一撃必倒!-   

 ──Battle
 その後も柚子葉は避け続けた。
 繰り出される圧倒的な手数に、さすがの柚子葉も苦戦こそしていたが、しかしそれでも攻撃をまともにもらうことはただの一度もなかった。全身傷だらけになりながらも、それらのいずれもが致命傷には程遠いこともあって、先に『悪魔』の方が音を上げた。
「いや参った、たった一人で僕を追ってきただけのことはあるみたいだ」
「自慢じゃねーが、避け続けるのだけは得意なんでね。でもま、こんな抑えなくても良かったかもだぜ。
 …さて、さっきてめーが言ってた言葉、そのまま返してやんよ──てめーは、いつまで続けてられるんだ?」
「君は、まさかこうなることを…っ!?」
 焦りの声を上げる男が放った攻撃は、彼女が唱えるただ一語によって立ち消えさせられる。
「カウンタースペル!?」
「ん? ああ、今のがてめーの切り札だったのか。だったらてめーがあたしに対して言うべきせりふは、期待外れでごめんなさい、だな。
 あたしはさ、そうゆーのが得意だってことも知らないでやってたみてーだし、本当にごしゅーしょーさまって感じなんだけどさ、あたしはそんなの知ったこっちゃねーもんな。──じゃあ行くぜ、武装錬金『賢者の知恵』(ウィザーズ・ウィズダム)!」
「武装もしないで、僕の攻撃を捌いていたというのか…!」
 柚子葉がまだ本気ではなかったことを知らされ、男が思わず後ずさる。
「『悪魔』の逆位置が示すところは回復、目覚め、別離、そして解放──ってか。覚悟は、いーかよ?」
 そして答えを待たず、相手の懐まで一気に踏み込んだ柚子葉の拳が、男の顎を鋭く打ち抜いた。
 力なく大の字に倒れた男を見下ろし、柚子葉が一つ大きく息を吐く。
「…相手の質が上がってやがる。面倒くせーけど、一応悠太郎に言っとくか」
 二人の戦いを近くで見守っていたのだろう。
 決着するや否や駆けつけてくる魔法警察官たちの足音に苦笑しながら、柚子葉が頭を掻いた。



4. これからも -こんな面倒くせーのかよ-   

 ──Conversation
 狭い部屋の中、一組の男女が向かい合う。
 そこは友人同士が過ごすような雰囲気の場所ではなかったし、二人の間に漂う空気も友人同士を思わすものではない。
「結局、どうゆーことなんだ?」
 椅子の上で四肢を投げ出す柚子葉の問いに、その正面の悠太郎が手元の書類に目を通しながら答える。
「つまり、アルカナもいよいよもって人手不足ということなのでしょう。
 今回貴女が戦ったのも、幹部として数えられていた一人です」
「あー、つーことはさ」
「ええ、これからの相手も、少なくともあの程度には強いでしょう。
 そこまで相手を追いつめているのはまさに貴女の功績なのですが、その分だけ貴女にリスクが跳ね返る結果になっているのもまた、疑いようのないことです。
 この点については、魔法庁の老人たちも申し訳なく感じているようですよ」
 悠太郎の淡々とした物言いは、それこそが純然たる事実なのだと柚子葉に認識させる。
「んなこたどーでもいーけどさ、この街の警戒だけは頼むぜ。
 アルカナのことだけじゃねーんだ、…上手く言えねーけど、イヤな予感がするんだよ」
「分かりました、貴女の言葉として、確かに伝えましょう」
 柚子葉が感じたような胸騒ぎというのは、決して軽視できるものではない。その感覚に根拠などなくても、そういうときはほぼ間違いなく何かが起こるのだと、悠太郎も柚子葉も認識していたからだ。
「ですが、今回の強い警戒体制も一ヶ月になります。そろそろ、限界になるでしょう」
「いや、それはそれでいーんだ。無意識に甘くなったトコを、あいつらは狙ってくるだろーからな」
 街全体が囮のようなものだと言おうとして、しかし悠太郎の口が止まる。
「そうさ、こんな状況にしやがったのはジジイどもの方だ。だったら、せーぜー利用させてもらうぜ」
 つまらなさそうに言ってあくびをした柚子葉に、悠太郎が眉根を押しもんだ。


-おわり-






登場人物
・小鳥遊柚子葉(たかなしゆずは)…華ヶ丘高校普通科二年生。女。錬金術部所属。不良?
・高木悠太郎(たかぎゆうたろう)…華ヶ丘高校化学教師。男。錬金術部顧問。
・ローリ近原(ろーりちかはら)…華ヶ丘高校養護教諭。女。ロリ近。名前だけ登場。
・悪魔(ザ・デビル)…今回のターゲット。男。鋼式+しろがね式。

21:54 | 華が丘 | comments(0) | trackbacks(0)
0
    コメント
    コメントする










    この記事のトラックバックURL
    http://blog.liebelei.jp/trackback/862301
    トラックバック