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小鳥遊柚子葉の日常IX。

おにーさんに対して、ぼくがおすすめしてるものは、あくまでも「大ハズレがない」という程度のものです。
ぼくのおすすめは、いわゆるLIFELOGに並べてありますので、興味のあるかたはご覧ください。

ということで、小鳥遊柚子葉の日常IXです。


リリック/レリック外伝
小鳥遊柚子葉の日常IX



1. オトナの -事情なんて-

 ──Conversation
 カレンダーでは秋と呼ばれる時節ではあっても、街を歩けば汗がにじんでくる。
 そんな残暑の厳しい季節であったが、薄暗い教室の中で向かい合う一組の男女にとっては、あまり関係のないことのようである。
「なあ、前から聞こうと思ってたんだけどさ、一体どうゆーつもりなんだ?」
 机上に足を投げ出している柚子葉(ゆずは)が問えば、問われた悠太郎(ゆうたろう)は手にする書類からを離さずに応じた。
「次の任務のお話でしょうか? 何かご不満があるなら、今のうちに聞かせていただきたいところですが」
 そうじゃないと、柚子葉がかぶりを振る。
「あたしが訊きてーのは、小姫子(さきこ)のことさ」
 つい先日から柚子葉の協力者となった少女の名を挙げられ、悠太郎は小さくうなずいた。
「ああ、小姫子くんのことですか。彼女は元アルカナで、『  』(ザ・デス)と名乗っていた人物ですよ」
 悠太郎の答えに、柚子葉はさらにかぶりを振った。
「それは、本人から聞いたから知ってる」
「さて、どこまで話せば良いのか悩ましいですが、…小姫子くんの父親と私は古い友人の間柄でしてね、そのよしみなのですよ。
 それに、小姫子くんは自らすすんでアルカナに手を貸していたわけではないことが分かっていますから、貴女に協力したいという彼女の意志を尊重するのは当然のことでしょう?」
「…どうしよーもなくうさんくせーが、そーかよ。
 つーかさ、悠太郎とあたしの名前を使ったからって魔法犯罪者が保護観察で済むとか、どんだけ超法規的措置なんだって話もあるしなあ?」
「気になるところでしょうけれど、深入りしない方が貴女のためで。私から言えるのは、私の友人がそういう方面にもいるということだけで、おもしろいお話ではありませんし」
 無理を通して道理を引っ込ませたと言う悠太郎に、柚子葉が盛大にため息を吐いた。
「まったく友人遣いの荒い男だ」



2. とおいようで -近いようで-

 ──Battle
 華ヶ丘の市街地から住宅街へと通じる脇道から、柚子葉は声を掛けられた。
「見つけたわよ、泡沫の魔女(うたかたのまじょ)」
「…てめーか。あたしもちょうど捜してたとこさ、『法王』(ザ・ハイエロファント)」
 いつものせりふを相手に言われてしまった柚子葉からは、どことなくぶぜんとした様子が伺える。
「最近貴女の話を聞かなかったから、引退したんじゃないかと思っていたんだけど」
「憎まれっ子世にはばかるってゆーだろ? あたしなんか、その典型さ」
 柚子葉にとってはどうでもいいことなのだろう。小さく鼻を鳴らして身構えれば、ざり、と靴底が鳴った。
「でも、くだんの魔女って本当に子供だったのね。やりにくいったらないわ」
 くしゃ、と『法王』が己の前髪に手櫛を入れる。
「おいおい、この期に及んでまで子供扱いしてくれんなよ」
 そういう難しいお年頃なのだと前置きしてから、柚子葉は首に提げる携帯電話をぎゅっと握る。
「『法王』は牡牛座の象徴にして、カードナンバーは五。その意味するところは慈悲、協調性、信愛、そして導き。そこから推測されるてめーの力は、純粋なるリリック…!?」
 自ら至った推測に、柚子葉が思わず声を上げる。
 アルカナは錬金術を悪用する集団であったはずだ。まさか、その集団の中心に錬金術を使わない者がいるなど、考えもしないことだったのだ。
「あらあら、正解ね。結構難問だったはずなんだけど、こうもあっさり当てられちゃうと、ちょっと残念だわ」
「ふざけろよ、この答えは反則だろーが!」
 くすくすと笑う相手に怒鳴り返して、柚子葉が武装錬金を発動する。相手が魔法使いである以上、劣位となることが避けられない武装錬金を切り札として握り続ける気はないということらしい。
「反則も何も、ただの事実なんだけどねえ」
 にこやかな表情とは裏腹に、その手から繰り出された雷の魔法は苛烈を極める。
「ちぃっ」
 その雷撃を大きく避けた柚子葉は、的にされては敵わないと、差していたヘアピンと腕時計をかなぐり捨てた。
「『賢者の知恵』(ウィザーズ・ウィズダム)がなかったら、今ので終わってたな」
「今ので決まらないなんて、やっぱり魔女っていうのは伊達じゃないのね。ええ、実に面倒くさいわ」
 苛立ちを隠そうとしない『法王』がさらに放つ攻撃をやり過ごしながら、柚子葉は反撃の機会をひたすらに伺い続けた。
「なんで、なんで倒れない…っ!?」
 着地を狙っては避けられ、絡め取ろうと網状に放っては切り裂かれて、攻撃を幾度放とうとも、十重二十重に重ねようとも、決して倒れない柚子葉に『法王』が声を震わせる。
「そりゃあ、当たってねーしなあ。今こうなってんのも、てめーが勝手に自滅しただけだろーが」
 魔法の使いすぎで肩で息をする相手との距離を、柚子葉が一気に詰める。
「『法王』の逆位置が示すところは躊躇、束縛、孤独、そして忍耐。…あたしとやり合うにゃあ、てめーはちいっとばかし、我慢が足りなかったみてーだ」
 そして、振り抜かれた柚子葉の拳が『法王』を捉え、その身体を大きく跳ね飛ばした。



3. きえゆくセカイ -ハカナイ世界-

 ──Recollections
 この前もらった休みに、メガ・ラニカに行ってきたんだ。魔女になってからは初めてで、だからって何かが変わるわけでもなくて。
 …いいや、確かに何かが変わってる、か。
「次はもう、母さんには会えなくなるかも知れねーな」
 あたしが話しかけたのは、地面に置かれた小さな石──こっちには日本みたいに立派な墓を立てる習慣がねーからこうゆーもんらしいが──あたしの母さんの、墓標だ。
「ここはもう、長くねーと思うんだ」
 メガ・ラニカが崩れかけてるなんてことは、あたしはもちろん知ってて。
 あたしがいるこの場所が、もうすぐなくなっちまうだろうって想像も、きっと間違いなくて。
「でもさ、あたしは」
 誓ったんだ、母さんのいた世界を守るんだって。



4. あたしは -救いたいんだ!-

 ──Coversation
「貴女からの呼び出しとは、珍しいですね」
 いつもの教室に悠太郎が入ると、そこにはすでに柚子葉の姿があった。
「…わりーな、今日は日曜だってのにさ」
「気にする必要はありません、何と言っても今日は文化祭ですからね」
 肩越しに軽く頭を下げてみせる柚子葉を制し、悠太郎が彼女の向かいに腰を下ろす。
「そっか、やけに騒がしいと思ったぜ」
「やれやれ、文化祭のことを気にしていないのは貴女くらいのものですよ」
 いかにも彼女らしい答えに、悠太郎が苦笑した。
「それより柚子葉くんの用向きを伺いましょう。貴女がわざわざ来たのですから、よほどのことなのでしょう?」
「んー、よほどのことのような、そうでもねーような、ビミョーなとこなんだけどさ。…それをジジイ共に渡して欲しーんだ」
 柚子葉は、あらかじめ机上に放り出していた紙束をあごで示す。
「これは?」
「あたしの、魔女としての仕事さ」
 示された紙束に目を通した悠太郎が、首を傾げる。
「…エピックの魔法陣、でしょうか。ずいぶん見慣れない形ですね?」
「そうだろーな、あたしはエピックについては素人だし、とりあえず組み上げた机上の空論にすぎねーよ。
 だから、それをそのまま動かしたところで、きっとほとんど動かねーだろーし、あたしにゃあ動かすこともできねーし」
 その言葉の真意をはかりかねて、悠太郎が眉根を寄せた。
「何が言いたいのでしょうか?」
「つまりさ、メガ・ラニカを救うための研究は、今も秘密裏に続いてんだろ? 『賢者の知恵』は、その研究から生まれた。だから、『賢者の知恵』は試作品なんだろ?
 けど、せっかくマナを創れても展開できなきゃ意味ねーのに、その手段が見つかってねえ」
 実につまらなさそうに自説を語る柚子葉が、後ろ頭に手を組んだ。
「はい、その通りです。これほどの難問に自力で正解にたどり着くとは、さすがですね」
「小姫子からも少し聞いたからな、完全に自力ってワケじゃねーよ。
 何にしても、それは、現状を変化させるための一石…になったら嬉しいって程度のもんさ」
 がたがたと椅子を揺らす柚子葉をたしなめて、悠太郎が改めて手元に目を落とす。
「まったく貴女という人は…この図形には、ぱっと見でもいくつかの論理の矛盾が見当たりますが…。
 なるほど、いや、本当に驚きました。荒削りではありますが、この基礎理論だけでも両世界から叙勲されてもおかしくないレベルの成果だと思います」
「そーかよ。別に、それはてめーが作ったことにしてもいーんだぜ?」
 茶化されて、悠太郎が苦笑した。
「そんなみっともないことはしませんよ。これは間違いなく、貴女の成果として伝えましょう。
 しかし、大魔女になってメガ・ラニカに住まおうなどと初めて聞かされたときは、失礼ながら夢物語とばかり思っていましたが、貴女は実力でつかみ取ろうとしています。実にすばらしい」
「世辞も皮算用もいらねーよ。あたしは、あたしがやらなきゃならねーことをやる、…今はただ、それだけさ」
 吐き捨てるように、しかし言い聞かせるように答えて、柚子葉が目を伏せる。


-おわり-





登場人物
・小鳥遊柚子葉(たかなしゆずは)…華ヶ丘高校普通科二年生。女。錬金術部所属。魔女。
・高木悠太郎(たかぎゆうたろう)…華ヶ丘高校化学教師。男。錬金術部顧問。
・樗木小姫子(ちしゃきさきこ)…柚子葉の協力者。名前だけ登場。女。武装式。元アルカナ。
・法王(ザ・ハイエロファント)…今回のターゲット。女。魔法使い。

00:00 | 華が丘 | comments(0) | trackbacks(0)
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